入浴介助で生まれる信頼関係。相手を思いやったお手伝いを
高齢者の心身の健康に、入浴は欠かせません。
身体を清潔にするだけならシャワーでもすみますが、浴槽につかることには、全身をあたためてほぐし、気持ちをリラックスさせるという大きなメリットがあります。
また、入浴介助は、利用者様と介護スタッフとの間に親密なコミュニケーションが生まれるきっかけにもなります。
大変だけれど、さまざまな利点もある入浴介助。
ここでは、安全で快適な、利用者様に喜ばれる入浴介助の手順と注意点について、詳しくお届けします。
入浴介助の基本的な手順
実際の作業に入る前に、作成にあたっての注意点を挙げておきます。
入浴前の準備
●排せつを済ませておきます。
●血圧・脈拍・呼吸数・体温をはかり、安定しているか確認します。
●皮膚に異常がないか確認します。
●着替え、パットなどの準備をします。
●不要なものは片づけておきます。
●脱衣所を22℃~25℃に調節します。
●壁面・浴槽・椅子などに温水シャワーをかけ、浴室内を温めます。
●看護師や、外部との連絡がとれるようにしておきます。
準備を整えたら、いよいよ入浴開始。
利用者にはいろいろな状態の方がいますが、まずは、基本的な入浴介助と見守りについて見ていきましょう。
洗髪・洗体
①シャワーの温度を確認し、椅子に座った利用者の足元にシャワーをかけます。
②「熱くないですか?」と聞き、OKなら、すね・膝とだんだん上の方にかけていきます。
③洗髪をします。お湯が耳に入らないようふさいでもらい、介助者が生え際にタオルをあて、顔にお湯がかからないようにします。それから髪にお湯をかけていきます。
④シャンプーをつけ、頭皮に異常がないか確認しながら、指の腹でやさしくマッサージするように洗います。
⑤流し残りがないよう、しっかりと洗い流し、タオルで水分をふき取ります。
⑥タオルに石けんを泡立て、下から上に動かすように洗います。発汗しやすい部位(胸の下・腹部のくぼみ・わきの下・肘と膝の屈伸部分)を念入りに、ただし強くこすらないよう注意しましょう。
⑦拘縮した手は、無理に開かず指一本ずつゆっくり洗います。
⑧シャワーで泡が残らないようしっかりと流します。
浴槽につかる
①椅子から立ち上がらせ、ふらついていないか確認します。
②利用者が一番怖いのが、浴槽に入る瞬間。「私が腰を支えていますからね」「足を上げるのをお手伝いしますね」などと声かけをし、安心してもらいます。
③利用者が浴槽内に座るぎりぎりまで支えつづけ、安定してから手を離します。
④退浴の際は「ゆっくり立ってくださいね」と声をかけます。血圧の変動でめまいを起こすことがあるので注意しましょう。
⑤しっかり立ったのを確認してから、浴槽から出るのを手伝います。
⑥椅子に座らせ、かけ湯をします。
⑦背中にバスタオルをかけ、ふけるところは浴室内で自分でふいてもらいます。びしょ濡れのまま脱衣所に出ないこと。
水分補給
①下着を着たら、水分を少しずつとってもらいます。
②気分が変わりないか聞き、話し方や動きなどよく観察しましょう。
つい忘れがちな、入浴時の注意点
ここまでが基本的な入浴介助の手順です。
次に、介助の際、とくに注意すべきポイントをチェックしていきましょう。
●浴室内を歩くときは滑らないよう、手と腰を持って支える。
●椅子に直接肌が触れないよう、タオルを一枚敷いておく。
●シャワーをかけるときは毎回、介助者が手で温度と強さを確認する。
●心臓への負担を避けるため、浴槽には、胸より上までつからない。
●浴槽内でずり落ちたり浮かないよう、側で支える。
●ちょっとの間でも一人にしない。必ず代わりのスタッフを呼ぶこと。
●湯冷めしないよう、着替えは手早く。頭髪もしっかり乾かすこと。
●爪を切るなら浴後の柔らかいときにする。
●浴後すぐに一人にせず、しばらくは注意して様子を観察すること。
当たり前のことのようですが、忙しさや慣れで、ついおろそかになりがちなポイントです。
毎回、しっかりと確認しながら介助するようにしましょう。
入浴をいやがるときはどうしたら?
本来、入浴は気持ちの良いもの。嫌う人はあまりいませんね。
けれども施設の入居者の中には、入浴やトイレを拒否する方が珍しくありません。
いったいなぜなのでしょうか。その理由から、対策を考えてみました。
理由①羞恥心
最も多いのは、恥ずかしいという理由です。
他人であるヘルパーに、全裸の状態で介助されるのですから、心理的に抵抗があるのも当然と言えます。
理由②動くのがおっくう
高齢者は活動が減少し、動きたがらない傾向があります。
入浴には服を脱ぐ、洗髪・洗体、お湯に入る、体をふく、服を着る、といくつもの活動が伴い、「面倒くさい」「手間がかかる」と入浴を拒否する方もよく見られます。
理由③入浴時間
施設の都合上、入居者の入浴は昼間に行われることが一般的。
けれど、入浴といえば夜、という方がほとんどのため、「まだお風呂に入る時間ではない」「出たらすぐ寝ないと風邪をひく」などと、嫌がる人も多いようです。
理由④認知症
認知症の方には、自分が認知症であることを理解できず、「入浴を人に手伝ってもらうなんてもってのほか」と強い拒否感を示す方がいます。
また重度の方では、入浴自体が理解できず、恐怖心から激しく抵抗する場合もあります。
対処法
これらのケースに対処するために、もっとも大切なのは、利用者との信頼関係です。
入浴という非常にプライベートな時間をともにするのですから、それ以前の段階から、安心して任せてもらえるような関係を築くことが大切。
ふだんから積極的に関わり、親しく会話をして、お互いのことをよく知ること。そして親密になれば、多少気がすすまなくても「あなたとなら」と喜んで入浴に応じてくれるようになるはずです。
ただ、認知症の方の場合は、信頼関係を築いたと思っても、しばらくして忘れてしまったりと、なかなか難しいところがあります。
認知症の方は、感情豊かなため、気分もめまぐるしく変わるもの。
ですので、入浴も、抵抗されたら無理をせず、本人が機嫌の良いときを見極めてタイミングよく声をかけると、スムーズにいくことが多いようです。
また、仲の良い利用者様と一緒に入浴してもらうのも、いい方法です。
以上、入浴介助についてお届けして参りました。
入浴は、心身の健康とリラックスのために役立ちますが、それだけでなく、利用者様の飾らない人となりを知ることができる有益な時間ともいえます。
日々の暮らしの中で、もっとも利用者様に近づくことができるコミュニケーションのひとときを、ぜひこれからも大切にしてくださいね。
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